〜目指すもの〜 <序章>

 今でもはっきりと覚えている、
いつものように先輩と練習していると部長が俺の側にやって来た時のことを。

ちょっとこっちへ来いと言われてキョトンとしていた俺を部長は自分の横に立たせ、
レギュラーの先輩方に向かって一言こう言った。

「今日からこいつも一緒に戦うことになる。」

あの日から俺は不動峰中男子テニス部の1年生レギュラーになったんだ…。



 部長から練習試合の話が持ち出されたのは地区予選が終わり、
東京都大会に向けて練習している時期だった。

「練習試合?」

 俺は思わず問い返した。部長は重々しく肯いて

「日時は今週の日曜日、午前9時からだ。」
「あの、相手は…?」

 俺の問いに部長は一瞬目を伏せてすぐまた見開いた。

「青学だ。」

  たちまちのうちに先輩方全員がどよめいた。
部長はいつもと同じように泰然としていたが俺は度肝を抜かれて
ポカーンとしていた。

青学―青春学園中等部の男子テニス部といえば全国レベルで有名なとこだ。
部長の手塚って兄ちゃんや、俺なんかよりずっと先に一年生にして
レギュラー入りを果たした天才少年、越前リョーマなど注目を浴びている人が
たくさんいる。

そんなとことうちが練習試合とは…部長もまた随分と大胆な企画を
立てたもんである。
ってゆーか、確かうちは地区予選で青学に負けたって聞いたけど???

「オーダーは当日発表だ。全員、ちゃんと覚悟しとけよ。」
『はいっ!』

 部長に言われて俺も先輩方と声をそろえて返事をする。
ま、どーせ俺の場合一応1年レギュラーつっても補欠だから
カンケーなさそうだけど。

「青学と練習試合かぁ。」

 レギュラーの1人、2年生の神尾アキラさんが何か噛み締める様に言った。
片目が前髪でちょっと隠れているのが印象的なお兄さんで物凄く足が速い。
どんなボールにでも追いついてしまうのでついた通り名は「スピードエース」。
「リズムに乗るぜ!」とか「リズムをあげるぜ!」という口癖がなけりゃ
格好いい人だ。

「何か妙な感じだよなー。」
「うん、そうだよね…」

 神尾さんの発言に反応したのはセミロングの黒髪にあまり表情のないお兄さん。
神尾さんと同じ2年の伊武深司さんだ。

「だってこの前の地区予選で青学に負けたしさ、俺のせいで橘さんが
手塚と試合できなかったしさ、ってゆーか俺なんか越前にやられたし、
やりきれないよな、あんな可愛くない奴にやられるなんてさ…ブツブツ」

 出た!伊武さんの癖、「ぼやき」。悪気無いんだろーけど感じはよくないなぁ…
いい人なんだけどね、この人も。

「橘さん、オーダーは当日言うって言ってたよな。」

 次に口を開いたのは桜井雅也さん。髪の毛がオールバックなのが
印象的と言おうか、笑えると言おうか…
とりあえず特筆すべきはダブルスの技術が凄いお兄さんだってことである。

、お前もしかすると練習試合に出されるかもしれないぞ。」
「はい?!」

 いきなりとんでもないことを言われて一生懸命玉拾いをしていた俺は
頓狂な声をあげてしまった。

「ちょ、ちょっと、桜井さん。何言うてはるんですか、いくら練習試合とは言え
俺は出されへんでしょ。」
「油断しないほうがいいぜ。橘さん、お前がものになるようにする気
みたいだからな。」
「勘弁してくださいよぉ…」
「まぁ、頑張れよ。」
「てゆーか贅沢なんだよなー、折角1年生でレギュラーになってるのにさー、
 もっとこう喜んだらいいのに…」
「深司、頼むからやめてくれ…」

 まぁ、この時は先輩が勝手に言っているだけで実際に俺が
青学相手の練習試合に出ることはないだろう、と思っていた。

しかし、俺はこの後自分の認識が甘かったことを嫌ちゅーほど
思い知らされることになる。

To be continued...


作者の後書き(戯言とも言う)

とりあえず海堂少年ドリーム始動です。

この作品は元々撃鉄の妹が友人同士で作った合同誌に連載していたものなのですが
折角書いたのにこのまま埋もれさせたくない、と思い、今回大幅に書き直して
皆様のお目に触れることとなりました。

名前変換が一箇所しかない上に肝心の海堂少年がまだ出ていないのですが、
まだこれからなのでどうか見捨てないでやってください。


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